歯内療法の極み〜歯内療法専門医・吉岡先生からのご寄稿〜
皆さまこんにちは。
今回は「歯を抜きたくない、なんとかして残したい!」と切に願った時の救世主とも言える、歯内療法専門医についてのお話しをさせていただきます。
一般歯科医院において対応できない難症例に遭遇した場合、より精度の高い診断および処置を行って下さるのが歯内療法専門医です。
そこで、今回は我々が大変お世話になっている歯内療法専門医の吉岡隆知先生に「歯内療法の極み」について執筆して頂きました。
吉岡隆知先生プロフィール
略歴
1991年 東京医科歯科大学歯学部卒業
1996年 東京医科歯科大学大学院修了 博士(歯学)
1996年 東京医科歯科大学歯学部付属病院医員
1997~2000年 日本学術振興会特別研究員
2000年 東京医科歯科大学助手
2007年 東京医科歯科大学助教
2010年 吉岡デンタルオフィス開業
主な所属・役職
東京医科歯科大学非常勤講師(2010年~)
日本歯科保存学会 専門医・認定医
日本歯内療法学会 専門医
Zeiss 公認インストラクター
医療法人社団白群会理事長
株式会社Toppy 代表
歯内療法症例検討会代表
歯内療法の極み
吉岡デンタルオフィス
吉岡隆知
1. はじめに
歯の根の治療を受けたことのある人は少なくないと思います。
歯の中をやすりのようなもので掃除する、等と言われて治療をしているはずです。
治療のために何回か通院が必要で、中には何ヶ月もかかっているかも知れません。
痛みが取れない、なかなか良くならない場合もあるでしょう。根の治療のことを「根管治療」と言います。日本では、保険治療での治療費が安いために根管治療はきわめて多く行われています。
安易に、と言ってもよいかも知れません。
海外では、ほとんどの国で根管治療は高価格です。根管治療になるような歯は抜歯されることもあるようです。
日本の根管治療数は世界一と言っても過言ではないと思います。
たとえばトルコでは根管治療した歯は一人あたり0.41本であるのに対し、日本では5.4本と、約13倍違います。
調査対象とする患者層が同じではないので、断定的なことはいえませんが、日本は世界的にも根管治療はやり過ぎと見られています。
むし歯が大きくて神経をとるようになったり、以前の治療が良くないので、やり直したりすることがありますが、どちらも根管治療です。
ネットでは「根幹」治療と書かれたりしていますが、「根管」が正しい表記です。
歯の中には神経や血管が入っている細い管のようなものがありますが、それが根管です。
下の写真が根管の一般的な形態です。
歯を酸に入れて軟らかくしてから特別な処理をすると、このように透明になって根管を観察できます。
根管にはインクなどをいれて見やすくしています。
これらの複雑な根管に対して行われるのが根管治療です。
歯科の病気というと、むし歯と歯周病はどなたでも聞いたことがあると思います。
治療は、むし歯を削って穴を補修すしたり、歯石を取ったり、あるいは治療後のメンテナンスをしたりします。
それ以外に親知らずなどを抜歯することもあるでしょう。ところが、根管治療のことはあまり有名ではないようです。
根管治療では根管の中を隅々まで綺麗に洗って(根管形成・根管清掃)、根管の空間を密封します(根管充填)。言葉で説明すればこれだけなのですが、根管の形態が複雑すぎて難しい治療になっています。歯科医師が治療するときに歯・根管の位置を誤認することも少なくありません。口が開かない、歯の向きなどにより、器具を入れること自体が困難な場合もあります。根管治療は言葉で説明する以上に難しくなります。
根管の処置は100%完璧に行われなくても、臨床的に問題にならない程度に行われれば治るのですが、それが達成できたことを客観的に判定する方法はありません。
治療の目標がわからないです。
症状はなくなっても、根管の清掃が終わっていないと根管充填できないし、根管充填していないとかぶせる治療に進めません。
根管治療では、使用する器材が話題になることがあります。
現代の根管治療にとってCBCTとマイクロスコープは外すことの出来ない装置です。
CBCTとは歯科用のCTで、極めて高解像度で歯と周囲組織の立体的な画像を提供してくれます。歯の治療というと、歯だけ見れば良いと思われるかもしれませんが、歯の根の周りの骨の情報も重要です。
通常のX線写真ではわからないものもCBCTでは明らかにしてくれます。
CBCTも様々な機種があるのですが、根管治療では高い解像度の装置で、最もよい条件で撮影すべきです。
得られた画像で診断が変わるからです。そして、根管形態は最高解像度のものでやっと見えるくらい細かいのです。
根の周りの影が歯の破折によるものか、炎症によるものかの診断で歯を残せるか抜歯になるか、結果が変わってきます。
CBCTの結果に基づいてマイクロスコープで見ながら治療をします。
マイクロスコープとは実体顕微鏡のことです。
マイクロスコープにも機種の違いはあるのですが、CBCTほどではないです。
それよりマイクロスコープで何を見るかが重要です。
マイクロスコーブを誰が使うかで結果が変わってきます。
CBCTで見える根管を見つけるために細く深く削っていかなければならないことがあります。
CBCT画像の解釈とその後のマイクロスコープでの治療には、そこに根管があってもおかしくないと判断する解剖学的な知識が必要になります。
例をお見せします。
初診時のCBCTです。
黄色矢印は前医により治療されていた根管です。赤矢印は発見されていなかった根管です。
この歯をマイクロスコープで観察します。
発見されてない根管は赤矢印の部分にあります。この矢印の部分を削っていくのは、経験がないと、怖いと思います。
別なところに穴をあけてしまうのではないか、と考えて、かなり躊躇すると思います。たしかに位置がずれてしまうと大変なことになります。
適切な方法で削っていくと、黄色矢印のように根管が見つかり、処置が出来ます。
根管治療で全ての問題が解決するわけではありません。
頻度は高くありませんが、治らない、あるいは治療後に再発する症例はあります。最初の根管治療がきちんとできていないと、再発する率は高くなると考えられます。
そのような場合には手術(逆根管治療)が行われます。
手術というと、患者さんはとても嫌がります。
成功率が高く治療回数も1回ですむので、かえって楽なのではないかと思うのですが。
手術では麻酔後に歯肉の中の病変部を取り除き、根の先からセメントを詰めます。
いわゆる膿の袋(歯根嚢胞)や複雑な根管形態が原因の場合に逆根管治療は有効です。
手術をせずに根管治療をやり直してもこれらに対処できません。
また、根管治療をやり直さなければならない場合、かぶせた歯を除去せずに逆根管治療を行うこともできます。
きれいな歯を入れたあとで歯が痛くなったり腫れてきたりすることがあり、逆根管治療で対応できることが多いです。
患者さんにとっても歯を作った歯科医師にとっても良い方法だと思います。
根管治療は、歯内療法という分野の一部門です。歯内療法には次の様な内容があります。
・痛みをとる
・原因歯を特定する
・歯の神経を守る(可逆性歯髄炎)
*守り切れない神経は除去して根管治療をする(抜髄)
*神経が死んでしまった場合も根管治療をする(感染根管治療)
*以前の治療が良くない場合にやり直す(再根管治療)
・治療した歯に不具合が生じたときに、その歯を救う(再治療、逆根管治療)
・むし歯や歯周病以外の歯の病変に対処する(歯根吸収、セメントーマなど)
・他院では抜歯と言われた歯でも何とかする
・ぶつけたりした歯を維持できるようにする
など
このうちの*をつけたものが根管治療です。
このような歯内療法を専門に治療するのが歯内療法専門医です。
歯を残したいと思ったら、歯内療法専門医に相談していただければ1番良い方法を提案してもらえると思います。
抜歯と宣告されたときに本当に抜歯しなければならないかどうか、ご相談ください。
他院で残すのは無理、と言われた歯でも残せる場合があります。